倉野憲比古さんとの縁
こんにちは、らきむぼんです。
Twitterやミス研では散々表明してきた、大好きな作品である『スノウブラインド』を始めとする倉野憲比古作品なのですが、明文化してこなかったので、いよいよブログに記事を書こうと思います。
その前に、僕やシャカミスと倉野憲比古さんの不思議な縁について、お話したいと思います。
まず、倉野憲比古さんがどんな作家さんなのか、紹介したいと思います。
Wikipediaによると、
倉野さんは心理学の専門家で、ミステリにおいても心理学が非常に大きい影響を及ぼしています。それは本格ミステリのロジックの範囲内からは外れるほどの幻想怪奇な色も持っていて、それを以てして倉野さんの作品は「変格」やそれが現代にアップデートされた「新変格」とも呼ばれています。
さて、実は倉野さんと僕や僕の所属するミステリ研究会とは、奇妙な縁で繋がっています。
倉野さんは2008年に『スノウブラインド』でデビューし、2011年に『墓地裏の家』という続編を出しています。
2008年や2011年というと、僕たちが所属するミス研「シャカミス」の設立よりも前で、当時学生だったメンバーも多い。もしかすると、その時点ではミステリを読み始めていなかった人も多いかもしれません。
当時の評価は、正直なところそこまで良いものではなかったように、あとから調べると思わざるを得ません。
しかし、どうやらその背景には不遇なものがあり、現在は一定の評価を得ているのではないでしょうか。
その不遇さについてはここで深く触れてもしょうがないのだけれど、簡単に言えば「帯などの売り文句と内容が乖離していた」「現在では新変格と呼ばれる内容に即した言葉がなかった」「現在では広く認められそうな作風が当時のメインストリームにはうまくはまらなかった」などなど、考え得ることは多くある。
一言で言えば「早すぎた」といったところだろうか。
さて、長編はそこから刊行されていない状態だったのだけれど、いくつかの偶然が重なり、我がミス研シャカミス内では特別な作家さんの一人となっていきます。
時系列で言えば、当時の非会員であり現在の会員の一人である青さんという方が当時のミステリ界隈の一人から『スノウブラインド』を紹介され、2019年3月30日に感想を投下します。
この感想は現在も見ることができ、とても良いのでぜひぜひ読んでほしいと思います。
その感想の投下から数日遡った頃、会員の窓辺さんという方が「らきさんが読んでそう」という感じで『スノウブラインド』を僕に紹介してくれました。
これも偶然性が高く、ミス研の定例会で深夜まで残っていたメンバー数名で「次にオフ会(毎年冬に開催していた)は山が良いですね」等と話しているうちに、冬の山といえばということで「タイトルに雪のつくミステリ」の話になったのがきっかけです。
この話題の飛び方もミス研らしくて好きなのだけれど(笑)、そこで名前が上がったのがこの作品だったのです。
ただその頃は僕はこの作品を知っておらず、あらすじを見て「確かにこれを僕が未読なのは不自然なほどに僕が好きそうだなぁ」と思った記憶があります。
窓辺さんの紹介してくれたミステリはどれも面白く、信頼していたので、僕はその場ですぐ『スノウブラインド』の購入を決めました。
ちなみに、当時は絶版だったため、中古を購入したのだが、後述する経緯で電子版をあとから購入しました。
青さんが2019年3月30日に感想を投下した次の日、僕が『スノウブラインド』を読み始めました。
感想は後ほど語るのだけれど、僕は一部の界隈では「奇書好き」だと知られている。
三大奇書や黒い水緒の系譜、衒学趣味と怪奇幻想の世界、そういったものが大好きで、宗教が絡んでいるものも好んでいます。
そして同時に、アンチミステリと呼ばれることが多い分野や、本格の枠組みを破壊する実験的・挑戦的なミステリも好物です。
そういった僕の趣味趣向と、今回紹介する『スノウブラインド』は完璧に合致しました。
そしてあまりに感動したので、ミス研内でも「めちゃくちゃ良かった」と宣伝することになります。
これが後に面白いことになっていきます。
*ちなみにこの頃は、作者の倉野さんとは交流がなかったので、おそらく急に感想が増えて驚かれたかと思います(笑)
僕がシャカミスでおすすめしだした頃は、実はあまりご本人も作家としての活動をされておらず、妙な話題の出し方をしてしまった気がしています。
あまりいい紹介をした記憶がないので(後述)、大変申し訳なかったのですが、ある意味ここが倉野さんの活躍を追いかけるきっかけだった気がします。
僕が『スノウブラインド』に甚く感動した後、他の作品も読みたいということでネットを漁っていると、今も読めるご本人のブログがあり、プロフィールには「昔、物書きをしていました。パンクな高等遊民です。」とあり、今思うと倉野さんらしくて好きなのだけれど、当時は「引退してしまったのか~。こんな面白いのに!」とどこか悲しい感想を抱いた記憶があります。
そして大変失礼なことに、「作品はめっちゃよかったんだけど今はめちゃくちゃ悲しいプロフィール文の作家さんで」などと話題に出した気がする。
そしてその頃に「じゃあシャカミスで応援しようぜ!」みたいな悪ノリでその場にいた5名ほどが急に倉野さんのTwitterをフォローするということがありました。
当時全く交流がなかったので、大変驚かれたと思います。本当にごめんなさい(笑)
いちどきに複数の方からフォローされ、ビビってしまった! 基本、小心者なので。
— 倉野憲比古 under 弔い月🌝 (@kuranonorihiko) 2019年7月20日
その後、集会のごとに僕が押しまくっていたせいか、年が明けて2020年2月の関東支部のオフ会にて、その場にいた数名がどんどん『スノウブラインド』を購入する謎のノリが発生します。
それから感想もシャカミスメンバーを中心に増えていき、発売当時読んでいたミステリ読みたちも「今思うとすごかったよね」というような感想をつぶやいたりと、ちょっとした話題になっていく。
そんな中で、おそらく倉野さんがご自身の著作への熱いツイートを見ていただき、それを再度売り込んでいただいたことで、『スノウブラインド』『墓地裏の家』が電子化に至りました。
2020年3月、原則改訂のない電子にもかかわらず、倉野さんの熱意で手直しの許可がおり、新たなキャッチコピー「新変格」とともに電子版が発売決定となる。
そして同年の7月に2作が発売された。
時を同じくしてミス研シャカミスでは、「シャカミスがなにか役に立ったかどうかはわからないけれど、会員が応援していたのは事実だし、電子化に合わせて読書会をやろう!」という話に。
次回のシャカミスオンライン読書会の課題本は、以前から話題に上がっていた、
— シャカミス (@shakamys) 2020年10月11日
倉野憲比古『スノウブラインド』『墓地裏の家』
の2冊で決定致しました。
日程は11月21日(土)21:00〜の予定となっています。#シャカミス
これがまた多くの会員が倉野作品を読むきっかけになりました。
同年8月にはあの『匣の中の失楽』でも有名な竹本健治さんの目にも留まり、このときの交流は後に「変格ミステリ作家クラブ」の設立という大きな流れにも発展していく。
その後、2020年10月11日(日)、シャカミスにて倉野憲比古『スノウブラインド』『墓地裏の家』の読書会が行われました。
この様子はシャカミスのYou Tubeチャンネルにて公開される予定です。
そしてついに、2021年12月に10年ぶりの新作『弔い月の下にて』が発売となる。
実際に本屋で目にしたときは、応援してきた作家さんの復活を目にして感動を覚えた。
出版社は変わりましたが、前から名前は倉野さんのツイートに散見していた『弔い月の下にて』。
応援してきたシャカミスももちろん呼応するように読書会を開催しました。
本日21:00〜よりオンライン読書会です
— シャカミス (@shakamys) 2022年1月29日
課題本は倉野憲比古『弔い月の下にて』となっています!#シャカミス
この様子もシャカミスのYou Tubeチャンネルにて公開される予定です。
さて、ここまで倉野さんとシャカミスの縁を語ってきましたが、だからといってシャカミスも僕も作品の評価に私情は挟んでいません。
白熱した感想戦の様子は、ぜひぜひ公開される動画でご確認ください。
僕個人の感想も、記事を投稿していきますので、読んでいただけると嬉しいです。
おまけ
ちなみにですが倉野さんのお祖父様が、国文学者の倉野憲司さんだと知って大変驚きました。
なぜなら僕は大学時代倉野憲司さん校訂の『古事記』を研究で使っていたからです。
そんな縁もあるのか、と思わされました。