哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

推理小説やSFのレビュー・書評・ネタバレ解説・考察などをやっています。時々創作小説の広報や近況報告もします。

【平成の奇書】麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』紹介&考察・解説

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夏と冬の奏鳴曲

どうも、らきむぼんです。

完全に奇書紹介屋と化していましたが、久しぶりにミステリの紹介と考察・解説をしたいと思います。といっても奇書みたいなものですが……

x0raki.hatenablog.com

今回紹介するミステリは、麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』です。
こちらの作品は、僕の中でオールタイム・ベストの作品と言える作品です。

先日、僕の所属するミス研「社会人ミステリ研究会(通称シャカミス)」にて読書会があったので、シャカミスのブログにも同じ記事を出そうかなと思います。どちらで読んでいただいても大丈夫です。

途中で「ここからはネタバレ」という警告を出しますので、未読の方はその先は読まないようお願い致します。

今回の記事は同じ内容をYou Tubeで動画として投稿する予定です。お前の声なんか聞きたくねえよ、って人はこのまま文字で読んでください!


麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』を紹介


麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』を考察する

 

目次

  • 麻耶雄嵩とは
  • あらすじ
  •  『夏と冬の奏鳴曲』のどこが凄いか
  • シリーズとしての立ち位置
  •  まとめ
  •  ネタバレ考察

 

麻耶雄嵩とは

『夏と冬の奏鳴曲』は麻耶雄嵩の第2長編です。

『夏と冬の奏鳴曲』の紹介に移る前に著者の麻耶雄嵩について、紹介させてください。

麻耶雄嵩といえば、2017年に著書の『貴族探偵』シリーズ2作が嵐の相葉雅紀主演でドラマ化され、ファンの中は非常に動揺したことが記憶に新しいです。この動揺というのは「本当に大丈夫なのか?」麻耶雄嵩を一般視聴者に見せて無事で済むのか?」というような動揺で、この「麻耶雄嵩」という作家がいかにコアな人気、カルト的人気を持った作家であるかが解ると思います。
ちなみに『貴族探偵』のドラマは大成功を収め、原作ファンも満足の出来であったと付け加えておきましょう。
しかし、基本的には大衆受けとは真逆の立ち位置にある作風の作家ということは先に申し上げておく必要がある作家なのです。

簡単に経歴をご紹介させていただくと、麻耶雄嵩は京大ミス研出身のいわゆる新本格世代のミステリ作家です。綾辻行人法月綸太郎島田荘司の推薦を受け、1991年に『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でデビューします。
2011年には『隻眼の少女』で第64回日本推理作家協会賞・第11回本格ミステリ大賞を受賞。2015年に『さよなら神様』で第15回本格ミステリ大賞受賞。
と、名実ともにミステリ界隈における評価は高い作家であると言えます。

一方で、しばしばミステリ初心者には勧めてはいけない作家とも言われます。
それは彼の作風がいわゆる「問題作」である事が多いという点と、かなりテクニカルな実験的作品であるから、だと思います。
たとえば「後期クイーン問題」を題材にした作品、「探偵」と「ワトソン」の関係に踏み込んだ作品、「探偵」という属性の意義を追求した作品、「謎解き」と「結果」の主客転倒、すべての解答が作中で描かれない、といったいわゆるミステリの「お約束」「コード」と呼ばれる様式を破壊する作品が多いのが特徴です。
しかし、コードを破壊したことが解るためにはコードを理解する必要があります。

ミステリの様式への超越のためには、読者はミステリの様式という壁の高さを知っている必要があります。
これが麻耶雄嵩をミステリ初心者に勧められない大きな要因でしょう。

また様式を描くためにやや人工的な舞台、設定、キャラクターとなる事が多いのも特徴です。これは新本格作家の共通した特徴の一つでもあります。これを好むか好まないかは読者の感性に委ねられますが、麻耶雄嵩のやり過ぎなほどのロジカルさや、様々な様式へのアンチテーゼと「人工性」は切り離せない要素であるとも思います。

そしてこれらだけならまだマシなのですが、麻耶雄嵩の作風には更にマニアックな特徴があります。
それが「大破局(カタストロフ)」と呼ばれる展開。
これについては語ることすら難しいのですが、もし麻耶雄嵩を読み続ければ、いつか予想を遥かに凌ぐ「世界」の破滅を目の当たりにすることになるのは間違いないでしょう。

あらすじ

さて、それでは今回の紹介作品『夏と冬の奏鳴曲』のあらすじについて、ご紹介させていただきます。

20年前、映画『春と秋の奏鳴曲』に出演した真宮和音という女優を様々な形と想いで崇拝し、和音島と名づけられた孤島で1年間の共同生活を送った男女がいました。
彼らは20年の時を経て、今は亡き「和音」を偲び、再び和音島に集まり「同窓会」を開くという。
地元の小規模な出版社で雑誌の編集をしている青年、如月烏有はアシスタントとして付いてきた高校生、舞奈桐璃とともに、取材として彼ら6人の「同窓会」に同行することとなった。

しかし彼らと話しすうちに、烏有と桐璃は次第にこの和音島や彼らが居住していた歪んだ屋敷、そして20年の時を経た「崇拝者」たちを纏う影の存在に気づきます。

そんな中、開かれた晩餐の席。約束の時間に遅刻して登場した、黒のフォーマルスーツを身にまとった桐璃の姿を見た、彼らは奇妙な反応をします。場は凍りつき、ある人物は桐璃の姿を見てこうつぶやきました。
「……和音」

これを皮切りに、烏有と桐璃はだんだんと自身とは無関係に思えた深い闇へと引き込まれていきます。
そして、真夏の和音島にあり得ないはずの雪が降ったとき、首無し死体の出現とともに事件は幕を開けます。

 『夏と冬の奏鳴曲』のどこが凄いか

あらすじをお聞きになって如何でしょうか?
ミステリファンにとってはこのあらすじだけで胸が踊ることでしょう。
このミステリには様々な本格ミステリらしさ」が詰まっています。
例えば「島」で起きる殺人事件、降雪と首無死体、これらは本格ミステリのお約束といえる設定でもあります。お約束がしっかりとしているということは、それを破壊するための手法に、それだけ耐えうる強度を持っているとも言えます。
そして、何よりも衝撃的なのは夏に降る雪でしょう。
これはミステリファンにとっては単なる異常気象ではありません。
非現実・奇跡・偶然といったロジックの外にある事象はミステリの基礎構造からは逸脱します。
もちろん全く相容れないわけではなく、それを生かした作品も数多にありますが、これらを世界観に含めるかどうかは非常に重要です。

しかし実はそれだけではなく、ロジック面でも非常に重要だとも言っておきましょう。
何故ならば、夏に雪が降ることは「予想不可能」だからです。
これは雪によって生じる不可能性や不可逆性を「事前に予測できなかった」ことの証左であるため、きちんとミステリのロジックにも関わってくるのです。

さて、この作品が極めて特殊な作品であることは、前述の異常気象だけではもちろんありません。
この作品の最も大きな特徴はその難解さにあります。

ストーリーの筋や、行われている各人物の行動は決して難解ではありません。

まず読者の何割かが難解だと感じているのは作中で重要な意味を持っているキュビズムについての解説です。
キュビズム(作中では「キュビスム」と言っています)とは、20世紀初頭にパブロ・ピカソジョルジュ・ブラックによって創始された画法です。対象を分析して、三次元を経由して二次元に戻す。抽象化から再構築する、そういった表現です。複数の視点を一つの絵に描きこむことで情報量を増やし、その視点の破片同士の相関も相まってより対象を理解するという側面もあります。
このキュビズムがこの作品の重要な部分を担っていて、作中でも詳しく説明されますが、興味の薄い人からしたら難解そのものでしょう。
ただ、実は基礎的な理解や作中での観念的な理解としては非常にわかりやすく、面白い部分でもあります。

そして多くの読者が難解に感じるのはそんなキュビズムをも内包した作品そのものの理解でしょう。
これは読んでから調べていただきたいのですが、この作品の考察は多岐に渡り、僕の考察記事や動画もその一つに過ぎません。この作品は、読んだあとが「本番」なのかもしれません。

これ以上の説明は困難を極めますが、一つ言えることは、この作品が麻耶雄嵩の最大の代表作であり、最大の問題作であるということです。
先ほど「麻耶雄嵩」の紹介で説明した異端のミステリ芸術のすべてがこの作品に詰まっていると言っても過言ではありません。

シリーズとしての立ち位置

『夏と冬の奏鳴曲』はミステリファンの中では「夏冬」と呼ばれているので、私もこれに習い「夏冬」と呼ばせてもらいましょう。

『夏冬』は1993年07月29日に講談社ノベルスから発売された500頁のミステリ長編です。
麻耶雄嵩の作品にはいくつかのシリーズ作品がありますが、その世界観は一部繋がっており、同一の世界であることが明示されています。この作品はそれらの世界(シリーズ)を繋ぐ非常に重要な地点にある、最も異形な作品です。
ここで少しだけ麻耶雄嵩のデビュー作品について触れておきましょう。
デビュー作の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』からは二人の探偵のシリーズが派生します。
それが銘探偵メルカトル鮎シリーズ』『名探偵木更津悠也シリーズ』です。
この2つのシリーズはこのデビュー作から生まれ、現在も続いています。
そしてこの2つのシリーズのクロスオーヴァー2作目であり麻耶雄嵩の第2長編であるのが『夏冬』です。

しかし実際のところ『夏冬』は単体で読み始めることが可能です。
この作品は前述の両シリーズの2作目でありながら、内容的にはほぼ独立しており、更には第3のシリーズの始まりの作品でもあるからです。

その第3のシリーズというのが『如月烏有シリーズ』です。
如月烏有という青年を主人公としたシリーズがこの『夏冬』から始まるため、読者はこの作品を単一のシリーズ1作目として読むことも可能ということになります。

『夏冬』ではこの烏有についての物語がメインで展開され、メルカトル鮎と木更津悠也については、「そんな探偵がいる」という程度の知識で問題ありません。

もちろん、この作品で沼にハマった人は、デビュー作の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』も読むことになりますし、続編の『痾』も読むことになります。しかし、あなたがもし『夏冬』で麻耶雄嵩の魅力に取り憑かれてしまったのなら、続編の『痾』をデビュー作の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』よりも先に読むことはおすすめしません。夏冬を読んで、その勢いで『痾』を読みたくなるのは誰もがそうなのですが、『痾』には『翼ある闇』のネタバレがあるため、ご注意ください。

そういったことを踏まえると、僕の個人的なすすめとしてはやはり『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』から順に読むことを推奨します。
ここでは『夏と冬の奏鳴曲』についてしか紹介しませんでしたが、実はデビュー作の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』も非常に波紋を呼んだ問題作なので、まずはデビュー作で思い切り脳を揺さぶられてから、さらなる境地である『夏と冬の奏鳴曲』に挑むのも良いでしょう。

 まとめ

さて、ここまで麻耶雄嵩作品の作風や『夏と冬の奏鳴曲』の紹介をさせていただきましたが、実際のところ、何がすごくて、何が面白くて、何が「異常」なのか、そのすべてをお伝えできたとは思っていません。

しかし、ネタバレ無しの紹介でそれが全て伝えきれないということ自体がこの作品の深さでもあります。

最後に、この作品の文庫の背表紙にはこんな紹介分が記載されています。

メルカトル鮎の一言がすべてを解決する」

キュビズムの解説でめげそうになっても、どれだけ「異常」な展開が待ち受けていたとしても、この言葉を信じてメルカトル鮎の登場まで、ぜひ読んでみてください

この作品がいかに傑作で、唯一無二の作品であるかは、ぜひ読んでいただいた皆さまで判断していただきたいと思います。そして、また一つ面白い考察が生まれることを期待しています。

さてここからはネタバレ全開で考察をしていこうと思います。

覚悟の上、臨んでください!

 

 ネタバレ考察

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2015~2019に読んだ本まとめ(ミステリ中心)

2015~2019に読んだ本まとめです。

 

おすすめの◯◯選みたいな記事ではないのですが、何かしらは誰かに刺さる作品だと思います。2010年代も終わるので自分の備忘録も兼ねてまとめてみました。

 

僕は一年に30冊前後くらいしか読まないので、5年分まとめて振り返ってもさして苦ではないなと思ってます。

 

おすすめしたいものや、一言加えたいものにはコメント入れてます!

あと当時ハードカバーだったものは、なるべく最新の文庫版に変えてます。

同じように現在絶版で電子書籍なら買えるものも一部変更しています。

併記している発売日と一致しないこともありますがご了承ください(変えるの面倒でサボりました!)

 

ではどうぞ!

 

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