哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

推理小説やSFのレビュー・書評・ネタバレ解説・考察などをやっています。時々創作小説の広報や近況報告もします。

森晶麿 『黒猫の遊歩あるいは美学講義』 レビュー

 

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

目次

  • 黒猫の遊歩あるいは美学講義
  • レビュー

 

黒猫の遊歩あるいは美学講義


でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽…日常に潜む、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」と、彼の「付き人」をつとめる大学院生は、美学とエドガー・アラン・ポオの講義を通してその謎を解き明かしてゆく。第1回アガサ・クリスティー賞受賞作。

 

レビュー

 

今回は僕のいつも読んでいるどす黒い感情の渦巻く殺人事件ものとはちょっと風味の違う、最近になって本格的に流行りだしているある日常ミステリージャンルに挑戦してみました。

 

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【奇書】【アンチミステリ】【黒い水脈】を読む

 

 目次

この記事の目的

まずこの記事の目的を簡単に。

話が長くなるのが僕の癖なので(←こういう書かなくていい切り出し方をするからなのだが)、手短に。

僕はミステリが好きで、年間読む本の殆どがミステリ。まだ初心者の域でどんどん名作を読んでいるところなのだけれど、特に大好きなジャンルがある。奇書と呼ばれるミステリだ。なにそれって言う人も多分いると思う。

ここでの奇書とは日本推理小説三大奇書のことであると先に述べておきたい。そして同時にそれに続く、黒い水脈と呼ばれる流れの先にある作品のことも奇書と称している。

三大奇書とは、小栗虫太郎黒死館殺人事件』、夢野久作ドグラ・マグラ』、中井英夫『虚無への供物』のこと。そして後に続く、四大奇書としての竹本健治匣の中の失楽』、更に後に続く第五の奇書と呼ばれる作品群にも言及する。

しかし実はこの記事は未完成で僕はこの記事を書き始める段階でほとんどが未読だった。最終的には奇書に興味を持った人への読破のアドバイスや読破後の関連本選びの指南を含んだ記事にするつもりで、その時はそれらしい記事として再度アップしたい。

この記事はその完成版に至るまでに未読を既読に変えて書き足していっている記事だ。

そんなつもりで奇書を読み続け、今(2017/10/08)は第五の奇書候補も残すところ二冊というところまできた。

完全版の投稿もおそらく一年後にはなされているのではないだろうか。

 

アンチミステリの定義

アンチミステリとは何か。

その定義はかなり曖昧で、これといった確定事項はないのだけれど、このミステリ用語の定義の定説になっているのは以下の様なもの。

デジタル大辞泉の解説
アンチ‐ミステリー

《〈和〉anti+mystery》推理小説の枠組みや構造そのものを作中で扱うメタミステリーや、従来の推理小説のあり方を否定するような、実験的な推理小説夢野久作の「ドグラ‐マグラ」や、中井英夫の「虚無への供物」などが知られる。反推理小説

 僕は現在のアンチミステリの定義にはこれが一番近いかなと思う。『虚無への供物』が最初に来てないのがテキトーな感じするけれど。

まあ正しい正しくないは結構難しいところなのであくまでも現在みんなからはこう思われてるよっていう参考程度に。

 

ちょっと僕なりに言い換えてみよう。

推理小説のお約束事を反転させたり崩壊させたりしてその問題定義やメタ的俯瞰を楽しむ分野。推理小説なのに推理小説であることを否定しようとする小説。

最近ではわりと衝撃的な推理モノはこう呼ばれちゃう。

 こんなところだろうか。

 

もう少しだけ具体的に説明してみよう。

推理小説には本格推理という分野がある。これはお約束をなぞる犯人当て要素の強いパズラーとも呼ばれるミステリのカテゴリだ。

日本では新本格という流れも生まれ今も人気作家が奮闘している。

例えばその約束事とはこんな感じ。

絶海の孤島から出られなくなり関係者が一人ずつ殺されていく。奇妙な館に招待され同じく一人ずつ登場人物が殺される。同じように嵐の山荘、雪山のロッジ、色んなお決まりの舞台がある。ミステリ用語で言うところの「クローズドサークル」だ。

もっと細かいお約束もある。

主役は探偵と助手という構造。助手が記述者であるという設定。安楽椅子探偵。今では古臭い指針でもあるがノックスの十戒*1ヴァン・ダインの二十則*2などもそうだろう。例えば双子トリックや秘密の抜け道、密室殺人、足跡のない雪。

あとは後期クイーン的問題とかね。

そういう幾つかの伝統のような縛りを設けながらロジックで読者が犯人を当てられるようなものを多く本格ミステリと言い多くは古典になる。それが現代を舞台にしているもの、新しい構造やギミックを軸にしているもの、それらを一つのムーブメントの総称として新本格と言ったりした。

 

アンチミステリはこれと逆のような構造になる。

上記のお約束の反転や破壊とはどういうことか。

 

――――それが知りたい方は是非アンチミステリを読んでみましょう(笑)

 

黒い水脈と三大奇書

さて、アンチミステリとは実は最初はただ一作を指す言葉だったと言われている。

ここからは結構人によって出典が違ったり、そもそも出典が曖昧というか、もしかしたら「出典が存在しないんじゃない」かという都市伝説的な要素も含まれるんだけど、一応アンチミステリはこんな流れで成立していったとされている。

 

まず、アンチミステリの元祖は中井英夫の『虚無への供物』であるということは間違いない。

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 
新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

 

 これは、作者である中井英夫が意図して「反ミステリ」「反推理小説」を作ったのであって、作中でも推理小説であること自体を否定する言葉が出てくる。

とにかくこの作品は稀代の名作。ミステリのお約束が解る程度にミステリを読んだ人には痛烈な皮肉と感動を与えてくれる作品。その酩酊感とペダンティックな内容は奇書好きにはたまらない。そして結末はミステリ史に名を残すもの。現実が虚構に飲み込まれ、全てのミステリは虚無への供物の上梓で一度死んだと僕は思っている。まさに虚無以前虚無以降などと論じることができるほどの怪作だ。

 

少なくとも当初アンチミステリの指す作品はこの『虚無への供物』であった。

 

さて、新本格推理への流れと並走して、「黒い水脈」と呼ばれる流れも生まれていた。

それが後にアンチミステリとなる作品群でもある。埴谷雄高氏が黒い水脈と言い出したらしいのだけれどちょっと出典が怪しい。

でも黒い水脈(ちなみに水脈は「みお」と読むらしい)と呼ばれているのは確かだ。言葉が一人歩きしたのかも。

もっと有名な言い方だと「三大奇書」だろう。「アンチミステリ」という用語はこの黒い水脈の作品群のうち最初に三つ挙げられた「三大奇書」と呼ばれる三作品を指す言葉と混同されてきた。厳密には奇書もアンチミステリも黒い水脈もそれぞれニュアンスの違う表現で特にアンチミステリという言葉は必ずしも奇書とはイコールにならないのだが、このあたりは答えを出すのが難しい。

その作品群がこちら。

 

小栗虫太郎黒死館殺人事件

黒死館殺人事件 (河出文庫)

黒死館殺人事件 (河出文庫)

 

薀蓄に死ぬほど気合の入っている探偵小説。本題は記憶に残らないくらいのゴシック趣味の装飾と知識の描写・説明。むしろ「アンチ読み物」なんじゃないかというくらい読みにくい作品。人によるとは思うけれど、おそらく四大奇書最大の読みにくさ。個人的には大好きな一冊で、2度読了しているがもう2度と読みたくない(笑)

主題と含蓄の転倒と言われているが、衒学(ペダントリー)的探偵に対して何故か衒学的犯人が居合わせる妙や、探偵が却って事を複雑にしていそうな辺りがアンチミステリ的。過剰すぎる装飾主義と衒学主義、ゴシック趣味。後のミステリへの影響を考えると名作ではあるがミステリとして遵守しなくてはならない点もあえて壊しにかかっているアンチミステリ。もし耐えられるなら、ミステリファンには是非読んでほしい。

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夢野久作ドグラマグラ

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

 
ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

 

 ジャンルが決めがたいほどの多様な展開を見せるミステリ。

この小説が多くの人にとって読みづらく挫折しやすい作品だと言われている所以は作中作の読みにくさにある。節の効いた読みにくい部分や漢文の読み下し文のような部分があるのでそこで多くの人は読むのを諦めてしまう。作中作や作中論文などメタ的な要素もアンチミステリ的に展開し面白いが、幻想怪奇な作中の学術論理も実は面白い。

「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」この文句があまりにも有名であり、なかには本当に狂うのではないかと恐れてこの作品を読まない者もいるらしいが勿体無い。本作を読めばこの文句の意味はわかる。「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」のではなく「この世に精神に異常のないものなどない」というだけである。これは皮肉的な文言であり同時に作品の性質を表している。
ともかく、一度最後まで読んで、その二転三転する展開、そしてその後に待ち受ける新たな謎や、可能性の分岐を楽しんでみても損はしないだろうと思う。

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中井英夫『虚無への供物』

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 
新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

 

アンチミステリは本来この作品を指していた。そこに黒い水脈として三大奇書が挙げられ、そこにこの作品が挙げられていたこともあり、違いはあるものの共通項の見出された三大奇書全般に「アンチミステリ」の認識が当てられていったというのがアンチミステリの成立の流れであるように思う。

 

基本的にアンチミステリを語るときはこの3作品が間違いなく挙げられるだろう。

そして黒い水脈はこれらの作品の流れを受け継ぎ今もミステリ業界にしっかりと流れている。

その流れを最初に継いだのがこれ。

 

竹本健治匣の中の失楽

匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

 

これもまた凄まじい怪作だ。

独特の酩酊感、互いが互いを組み込む二重の箱構造を取る作中作、窒息しそうになるほどの衒学主義、どれをとっても奇書に相応しく素晴らしい出来。ミステリファンになるならこの作品はいずれ読むことになるだろうけれど、やはり流れとして『虚無への供物』を読んでいるとより楽しめる。

『虚無への供物』を別の角度から再表現している。虚無への供物もそうだけれど、酩酊感で作中に気を取られているところに終盤のラッシュがあって、正気に戻って現実世界に立ち返ると、現実にいながらにして作中に巻き込まれている。

個人的には哲学の思考実験とか、不確定性原理とかスリット実験とか、ラプラスの魔とか、そういう知識を面白がって中学くらいから調べて読んでいた無意味と思われるような趣味が『匣の中の失楽』で普通に語られているのがほんとに嬉しい。四大奇書読破の最後の一冊に相応しかった。

最近ではサイドストーリーの『匳の中の失楽』を収録した新装版が出ているのでそちらがオススメ。

この作品を含めて、四大奇書とも呼ばれるので奇書を読破するならここまでは読んでおきたいところ。

新装版 匣の中の失楽 (講談社文庫)

新装版 匣の中の失楽 (講談社文庫)

 

 また、『匣の中の失楽』を読めばオマージュ作品の『匣の中』もルート解放される。

こちらもなかなか評価が高い。

匣の中 (講談社文庫)

匣の中 (講談社文庫)

 

本書は『匣の中の失楽』のオマージュである。その病的なまでの凝り方と作り込みの精緻さを以てすると本家に並ぶ傑作だと思う。

謎や暗合、そして暗号、それらの多さは読む人を選ぶ衒学の極みであるが、本家が好きなら必読の面白さである。謎はメインどころは明かされるものの他は読者に委ねられるため、読了後からが「本番」である。提示された暗号以外にも小さな仕掛けが多数あるので気付かないものも多いかもしれない。しかし明らかに放置されている分だけでも暗号を全て解くと作中の結末を凌駕する驚天動地の結末が現れる。 

四大奇書を読破した貴方ならきっと結末の先の結末へ辿り着けるだろう。

 

第五の奇書 

ここからは当初の定義とは随分変化したかもしれないが奇書やアンチミステリとして流れを継いでいる作品を幾つか紹介したい。

まだ未読がちらほらあるのが申し訳ない。ただ入手済みなので読了し次第 レビューは書いていきたい。

まずはアンチミステリというよりは「奇書」として三大奇書の特徴を引き継いだ作品、正統なる第五の奇書から。

 

 山口雅也『奇偶』

奇偶 (講談社ノベルス)

奇偶 (講談社ノベルス)

 

ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』『匣の中の失楽』に連なる第五の奇書。四大奇書を読解していれば、本書がそれらとテーマを同じくした傑作であることは理解できるはず。 奇書には各々個性があるが本書は「偶然」を主軸に、徹底的に論じている。同時に偶然はミステリのタブー、アンチミステリとしても奇書の系譜に連なる。作中作も奇書の遺伝子だ。 易学に、シュレーディンガーの猫や不確定性原理量子力学ユングシンクロニシティ、確率論。衒学的部分も説明がうまく比較的容易に理解できる。奇書に真っ向から挑んだ傑作。 これを読んでいる間、偶然という現象に過敏になっていたのかちょっとした偶然がたくさんあった気がしてならない。読了寸前で自分が最近書いた小説の内容が出てきたときはなぜこのタイミングで、と思ってしまった。ひょっとすると、今まさに骰子が振られ、世界が壊れてしまってもおかしくはないのかもしれない。

 

天帝のはしたなき果実 (幻冬舎文庫)

天帝のはしたなき果実 (幻冬舎文庫)

 

現在未読、入手済

綺想宮殺人事件

綺想宮殺人事件

 

現在未読、入手済

この3作品は第五の奇書と謳われる作品たち。 

自薦他薦あるのだが奇書の系譜に並ぶ作品といえる。

他にも奇書やアンチミステリの話をする時に話題に上がる作品、第五の奇書や新三大奇書を作るなら、というような話題に挙げられるのが以下の作品。

 

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

 

これはまさしく平成の奇書。作中のキュビズムに対する衒学的な記述もそうだし、不気味な雰囲気、終盤の酩酊感、読後の困惑、いずれの要素も問題作と言われるだけの作品と言える。一応シリーズの一作ではあるが、比較的関係性のない作品なのでこちらを単独で読んでも支障はない。可能であれば『翼ある闇』を読んでから読むことをおすすめしたい。奇書は書店では殆ど置いていないが本書、通称「夏冬」も書店ではまず手に入らない。絶版本だがAmazon等であればまだ中古での入手が可能なので気になる方はお早めに。強烈な酩酊と衝撃をお約束します。

眩暈を愛して夢を見よ (角川文庫)

眩暈を愛して夢を見よ (角川文庫)

 

平成の奇書。第一部までは先の展開を予想できるくらいには解りやすいのだがそれ以降は最後の1ページまでまさしく眩暈のするような展開と構造。 『ドグラ・マグラ』のような夢現の混乱、『虚無への供物』のような現実とフィクションのメタ的接続、『匣の中の失楽』のような構造的幻惑、『夏と冬の奏鳴曲』のような唐突な収束。作中にも出て来るが『ブラッド・ミュージック』を思わせる「侵食」は優美さと同時に頭痛をもたらす。周到で意図的なサンプリングが逆に個性になっており、終始計算された歪みと狂気の演出になっている。衝撃の快作ミステリ。 頭痛のするような酩酊感は奇書候補随一で、他の奇書風の作品の特有の衒学趣味が見られない分構造で脳内を揺さぶってくるのが本書。

神戯-DEBUG PROGRAM-Operation Phantom Proof (講談社BOX)

神戯-DEBUG PROGRAM-Operation Phantom Proof (講談社BOX)

 

現在未読、入手済

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

 
ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

 
ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)

 
現在未読、入手済

そして何と言っても、奇書ではないがアンチミステリの代表的な作家といえばまさにその麻耶雄嵩が挙げられるだろう。いくつか紹介しておきたい。

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

 
夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

 
神様ゲーム (講談社文庫)

神様ゲーム (講談社文庫)

 
隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)

 

x0raki.hatenablog.com

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

 
メルカトルかく語りき (講談社文庫)

メルカトルかく語りき (講談社文庫)

 
これらは全てアンチミステリ的な要素を含む作品だ。 これ以外にも麻耶雄嵩の作品の多くにはアンチミステリの要素が含まれていて、しかもそれぞれ別の視点からアンチミステリを取り上げている。

特に最後の『メルカトルかく語りき』は本当によく出来ていると思う。 最近読んだ小説の中では、僕は個人的にはトップレベルに好きな作品だ。 ちなみに最近アンチミステリの一作として話題に挙がっている(2015年現在)のが、これ。 井上真偽『その可能性はすでに考えた』<

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

 (追記:『その可能性はすでに考えた』レビュー)

x0raki.hatenablog.com

まあこれは設定はアンチミステリかもしれないが、普通のミステリとしてもかなり面白いのでオススメ。

このように定義は拡大の一途であるが、アンチミステリの流れは今もジャンルとしてまだまだ人気がある。また、数年のスパンで「奇書」を継ぐ作品も出てきているので、こちらの方にも期待したいところ。

まとめ

さて、定義についての議論に足を踏み入れると、そもそも「本格」や「新本格」という表現も線引が難しく、更に「奇書」「アンチミステリ」に何を含め何が満たないかという話もそれだけで数年話題が続くくらいの大きな問題であると思う。 なのでここで挙げた奇書やアンチミステリはあくまでもかなり広い範囲でその意味を捉えている。個々の作品が奇書であるかどうか、アンチミステリであるかどうか、それについては個々人が読んで決めればいい。 まずは読まなければ何も決められない、奇書を読んで語り合える人が一人でも増えれば幸いだ。 いずれはこの記事を元にしてちゃんと体系付けた記事を書きた。 それでは、またどこかで。

*1:

ノックスの十戒

 

  1. 犯人は物語の当初に登場していなければならない
  2. 探偵方法に超自然能力を用いてはならない
  3. 犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない(一つ以上、とするのは誤訳)
  4. 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
  5. 中国人を登場させてはならない (この「中国人」とは、言語や文化が余りにも違う外国人、という意味である)
  6. 探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
  7. 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
  8. 探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
  9. “ワトスン役”は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
  10. 双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない

 

*2:

ヴァン・ダインの二十則

 

  1. 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
  2. 作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
  3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
  4. 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
  5. 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
  6. 探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
  7. 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
  8. 占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
  9. 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。
  10. 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
  11. 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
  12. いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
  13. 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
  14. 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
  15. 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
  16. よけいな情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。
  17. プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
  18. 事件の結末を事故死とか自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。
  19. 犯罪の動機は個人的なものがよい。国際的な陰謀とか政治的な動機はスパイ小説に属する。
  20. 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。

・犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
・インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
・指紋の偽造トリック
・替え玉によるアリバイ工作
・番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
・双子の替え玉トリック
・皮下注射や即死する毒薬の使用
・警官が踏み込んだ後での密室殺人
・言葉の連想テストで犯人を指摘すること
・土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法

 

麻耶雄嵩 『螢』 レビュー/後半でネタバレ

 

螢 (幻冬舎文庫)

螢 (幻冬舎文庫)

 

 

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  • レビュー
    • 閑話
    •  麻耶作品について
    • 内容
  • ネタバレ

 

 

梅雨。大学のオカルトスポット探検サークルの六人は、京都府の山間部に佇む黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」へ、今年も肝試しに向かっていた。そこは十年前、作曲家でヴァイオリニストの加賀蛍司が演奏家六人を惨殺した現場だった。事件発生と同じ七月十五日から始まる四日間のサークル合宿。昨年とちがうのは半年前、女子メンバーの一人が、未逮捕の殺人鬼“ジョニー”に無残にも殺され、その動揺をまだ引きずっていたことだった。ふざけあう悪趣味な仲間たち。嵐の山荘で第一の殺人は呪われたように、すぐに起こった―。大胆にして繊細。驚きに驚く、あざやかなトリック!本格ミステリNo.1の傑作『鴉』から7年。鬼才が放つ新たなる野望。

 

レビュー

 

閑話

さあ『隻眼の少女』に続き、今回も麻耶雄嵩のミステリです。

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麻耶雄嵩 『隻眼の少女』 レビュー/後半でネタバレ

 

隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)

 

  

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  •  隻眼の少女
  • レビュー
  • ネタバレ

 

 隻眼の少女

山深き寒村で、大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に巻き込まれる。犯人と疑われた静馬を見事な推理で救ったのは、隻眼の少女探偵・御陵みかげ。静馬はみかげとともに連続殺人事件を解決するが、18年後に再び惨劇が…。日本推理作家協会賞本格ミステリ大賞をダブル受賞した、超絶ミステリの決定版。
 

レビュー

 

この小説は麻耶作品の中では比較的読後感がライトなものだといえると思う。

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三津田信三 『首無の如き祟るもの』 レビュー/後半でネタバレ

 

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

 

 

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  •  首無の如き祟るもの
  • レビュー
  •  ネタバレ

 

 首無の如き祟るもの

奥多摩の山村、媛首村。淡首様や首無の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。三つに分かれた旧家、秘守一族、その一守家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る。「刀城言耶」シリーズ傑作長編。

 

レビュー

 

さて、まず何から書こうか、と迷うほど色々と詰め込まれているのがこの作品の特徴だ。

一つ断言できるのは、おそらくここ十数年のミステリの中でも指折りの傑作の一つであることだろう。

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