哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

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【MOZU原作】逢坂剛『砕かれた鍵(百舌シリーズ3)』レビュー/後半でネタバレ考察あり

 

砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

 

 

警察官が関連する事件が続発した。麻薬密売を内偵中の特捜隊の警部補とその同僚の巡査部長が射殺され、麻薬吸引者の元警察官に婦人警官が刺殺された。何か巨大な陰謀が警察内部で進んでいる模様である。警察庁特別監察官・倉本尚武が乗り出し、執念の捜査を開始する。そして“ペガサス”という名の謎の人物にゆき当たるが…。

 

・レビュー

 

今回もなかなか面白かった。
前2作までにあったミステリ的なトリックはあまり期待できないのだけれど、その分警察サスペンスとかハードボイルド的な面白さが増した感じがする。倉木のストイックさというか、かっこよさが2作目ではあまり垣間見れなかったところがあったけれど、今回は1作目のようにギラギラした感じに描かれていてよかった。
とはいえ1作目が傑作すぎてのがやや問題で、1作目の話を終わらせるための要素として2作目もまた秀作だった。どちらかといえば1,2作の『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』は続編関係というより上下巻のような感覚がある。殺し屋「百舌」の件や陵徳会病院事件を解決するというストーリーの大まかな枠があったから。今回はストーリーとしてはこれらとほぼ関係がない。まだ続きがあるから正確な表現ではないけれど、ここまでの3作を三部作と位置づけるとしたならば、1,2作はキャラクターたちの出会いや因果、運命。そしてこの3作目が登場人物たちの一つの完成。前回までのストーリー重視から、キャラクターの心情にフォーカスした感じがする。
倉木尚武、倉木(明星)美希、大杉良太、津城俊輔という一貫して登場するキャラクターがどういった運命をたどるのかが見どころかなと思う。
ちなみにミステリ的なトリックは期待できないといったけれど、最後の方にはそれなりにトリックめいた謎の解明や衝撃のラストが待っている。ある意味シリーズの転換期にあたる今回は、クライマックスが抜群に面白い。

しばらくは読まないかなとは思うけれど、機会があったら4作目以降も読みたいと思う。

さて今回は軽くネタバレをします。ネタバレオッケーな人はぜひ下にスクロールしてください。

 

前作のレビュー↓

逢坂剛『百舌の叫ぶ夜(百舌シリーズ1)』ドラマ『MOZU』との比較レビュー(ネタバレなし)/ドラマ予想(ネタバレあり) - 哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

逢坂剛『幻の翼(百舌シリーズ2)』レビュー - 哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

 

 

百舌の叫ぶ夜 (百舌シリーズ) (集英社文庫)
 
幻の翼 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

幻の翼 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

 
砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

 
よみがえる百舌 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

よみがえる百舌 (百舌シリーズ) (集英社文庫)

 

 

ここからネタバレ

 

 

 

今回は主要4キャラがすごい良かった。

まず倉木尚武、彼はかっこいい主人公の代名詞になれそうな感じのストイックで究極的な冷静さを持つキャラクターだけれど、2作目ではロボトミー手術にかかったふりをする関係であまり登場しないし常にボロボロだった。今回は完全復活して得意の捜査をどんどんやってくれる。そしてなによりラストね。シリーズもので主人公を殺してしまうのはある意味タブーというか、大丈夫なの??って思いたくなる展開だけれど、シリーズ存続が下手するとできなくなるけれど、それでも主人公の死をやるべきだったという決意のようなものを感じてよかった。

倉木(明星)美希は今回は復讐に燃える母だったね。これも心情的にはよくわかるし、今回一番きついのは彼女だろう。自身の危険もあったし、息子や母を失い最後には夫までなくすという、悲惨さだった。ただ最後はなんとなくいい雰囲気だった大杉と新たな関係に発展しそうで、以後のシリーズではここが伏線になるのかなと思う。

大杉良太は今回は探偵だったけれど、こっちのほうが合ってるかなと思った。そして彼は唯一、早い段階で真犯人ペガサスこと前島堅介に出会って関わっている。正直僕も前島がペガサスとは思いもしなかった。1,2作目よりも素直に騙された感じがする。美希との関係が発展しそうだが、彼の心情としてはどうなのだろうか。倉木の最後の言葉を理由にくっつくのかそれとも……まあいつか4作目を読めばわかることだろう。

津城俊輔は今回は登場しないかと思っていたのだけれどやっぱり出てきたね。作中でも独特の親しみみたいなものがあるけれど、このシリーズにはやはり彼が登場しないとね。相変わらずの読めない性格だけれど、今回は幾分人間っぽいというか、頭を撃たれて本領を発揮していないのか、いい人感がある。ただ最後にはまた鋭さが垣間見える。

以降は公安省、公安庁を創ろうとしている政治的大物を倒そうと画策していくのだろうか。いくら倒しても出てくるその手の敵だけれど、根本から警察や政治家を叩く話になってくるのかもしれない。それが今回死んだ倉木の意志を継ぐという形なのかなという気はする。いずれにせよ、そのうち続きも読んでみたい。

 

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