【学生アリスシリーズ】 有栖川有栖 『孤島パズル』 レビュー(ネタバレなし)
孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
紅一点会員のマリアが提供した“余りに推理研的な”夏休み―旅費稼ぎのバイトに憂き身をやつし、江神部長以下三名、宝捜しパズルに挑むべく赴いた南海の孤島。バカンスに集う男女、わけありの三年前、連絡船の再来は五日後。第一夜は平穏裏に更けるが、折しも嵐の第二夜、漠とした不安感は唐突に痛ましい現実へと形を変える。晨星落々、青空に陽光が戻っても心は晴れない…。
レビュー
前作『月光ゲーム』同様、非常に面白かった。
前のレビュー(【学生アリスシリーズ】 有栖川有栖 『月光ゲーム―Yの悲劇’88』 レビュー(ネタバレなし) - 哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂)でも、僕の個人的な謎解きの勝敗についてちょっと書いたけれど今回も記しておく。と、同時にその結果を振り返りながらレビュー。
『月光ゲーム』今まで読んだミステリで一番苦労したが、今回は比較的容易に謎は解けた。読者への挑戦のページで幾つかの謎について、その解明の限度が言及されていたので、とりあえず犯人を一人に絞ることだけに集中できたというのが大きいかな。
前回は結構あらゆる謎について考えていたから難しいなんてもんじゃなかった。
今回は探偵役の江神さんとほぼ同時に、容疑者を絞れたので、まあひとまず安心して結末まで読めた。
個人的には今作のほうがミステリという一種のパズルというか、ゲームというか、そういうエンタメ性において面白いと感じた。
優美さや、余韻のような、「わくわく」とは違う面白さで考えると『月光ゲーム』の圧勝だろうか。
フーダニット (Whodunit = Who (had) done it)
誰が犯人なのか
ハウダニット (Howdunit = How (had) done it)
どのように犯罪を成し遂げたのか
ホワイダニット (Whydunit = Why (had) done it)
なぜ犯行に至ったのか
といった三要素で考えるならば、ハウダニットが今回一番難しいところかな。というかハウダニットが判ればフーダニットは自動的に算出できる。
ホワイダニットは想像力によりけり。
ただ僕はホワイダニット→フーダニット→ハウダニットの順に論理を詰めた。ちょっと偶然に頼りすぎたかもしれない。
前作同様、いろんな人の感想を聞くと「地味」と返ってくることが多い作品だろうと思う。だが今回もそれは逆に考えるべきだと思う。というか、このシリーズは実現可能性を派手さよりも優先していて、だからこそより読者が作品に挑める。タイトル通り、これはほとんどパズルだ。
だから今回も移動手段、死亡推定時刻、アリバイなどの情報から論理でたった一人の犯人にたどり着くことが可能。極めてフェアな、本格ミステリであるといえる。
前作よりもシンプルで、面白いかもしれない。
今回も青春的要素があったりもするんだけど、今回は謎解きの場面や、「密室」というテーマについての会話が、印象的だったかな。
ともあれちょっと難しいパズルを解いているつもりで、休日の徹夜本にどうだろう。きっと楽しめるはずだ。