哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

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アガサ・クリスティー 『オリエント急行の殺人』 レビュー/後半でネタバレ

 

 

目次

 

 オリエント急行の殺人

厳寒の季節、国際列車オリエント急行は世界各国からの乗客でいつになく混んでいた。一癖も二癖もある乗客たちが作る異様な雰囲気のなか、雪で立往生した車内で、老富豪が刺殺された。名探偵ポアロが腰を上げたが、乗客のすべてには堅牢なアリバイがあった……大胆なトリックで贈る代表作。(解説 有栖川有栖

 レビュー

 

実は読んだのはもう数カ月前。

ちょうど三谷幸喜によるドラマ化で2夜連続の『オリエント急行殺人事件』が放送された頃。

 

実はこのドラマが結構原作に忠実。野村萬斎の勝呂という役もポアロのイメージには合ってると思う。

ただ2夜目は完全にオリジナルで、犯人側からの視点で事件が描かれている。三谷幸喜というとコメディ色が強いイメージではあるけれど、1夜目に関してはちゃんと封印してしっかりミステリになっていた。

 

さて今回はそんなドラマの原作、アガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』のレビュー。

 

まずこの作品は「意外な犯人」「意外なトリック」で有名。そして『アクロイド殺し』のとき同様、賛否の分かれる作品だ。フェアかどうかという点ではこれもなかなかギリギリの線を行っている。

ただ僕は『アクロイド殺し』もフェアであると思うし、『オリエント急行の殺人』も十分フェアだと思う。

 両作品とも真相にたどり着くための情報が記述されており、作者が直接読者を騙そうとしているわけでもないので、あくまでも登場人物のトリックを見破ればいいのだ。

古典ミステリの部類だが、やはりクリスティーは読みやすい。名作として名を残す作品であるし、これもまた『アクロイド殺し』や『そして誰もいなくなった』のようにいつネタバレを受けてもおかしくないくらいネタバレされやすいので、ミステリファンは早めに読んでおくといいかもしれない。

 
この下からネタバレ 

 

アガサ・クリスティー 『アクロイド殺し』 レビュー・解説/後半でネタバレ解説あり - 哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

 

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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ネタバレ

 
さてここからはネタバレ。
 
物語はポアロが中東での仕事を終え、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗るところから始まる。
ちなみにいつもは空いているはずが満席。この時点でこの伏線に気付けると比較的簡単にトリックにも気付ける。

そこでラチェットという男が殺され、その死体には12の傷がある。その傷は様々で深いもの浅いものなど。これも犯人が複数で、かつ12回も傷つける必要性があったことを匂わせます。
このあたりでトリックに気づいていないと多分迷走するんじゃないだろうか。


ポアロは一等車の乗客12人や関係者に事情聴取をするが車掌含め容疑者にはアリバイがあり怪しい人間は見つからない。
しかし現場に残されたラチェットへの手紙から、アームストロング家の娘が誘拐され殺害された事件が、今回の事件に関係があると判明する。

つまり被害者のラチェットはアームストロング事件の犯人であったということが、殺害された理由に当たるとポアロは推理する。


すると次第に、容疑者全員がアームストロングの事件に何らかの形で関与していることが判ってくる。

つまりこの事件は、容疑者がすべて犯人であったという結末なのだ。
アームストロング事件の復讐が動機であり、アリバイが全員に存在したのは全員が共犯であったからである。
だから列車は満員だったわけである。

ちなみに実行犯は12人だが、この犯罪に関係したのは13人である。これもまた一種のミスリードであり、トリックに気づきにくくなる。
解決のために捜査をしていたポアロ一行以外が全員共犯だったというオチは非常に大胆なトリックといえると思う。

そして、それとは別に賛否が分かれるのは、結末として、ポアロはこの事件を警察には引き渡さないのだ。別の解釈を進言し、犯人たちを裁くことをしない。つまり見逃すわけだ。
これは被害者が悪人であったとはいえどうなのだろうか。僕はあまりその辺りに関しては、意見を持っていないのだが、1つのテーマではあると思う。
仇討ちの正当性を取るか、それでも殺人は罪であると取るか、それは読者に委ねられている。

……まあポアロのその辺の思想は『アクロイド殺し』ではもっとすごいんだけどね(笑)
 
アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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