哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

推理小説やSFのレビュー・書評・ネタバレ解説・考察などをやっています。時々創作小説の広報や近況報告もします。

山田宗樹 『ギフテッド』 レビュー/警告後ネタバレあり

 

ギフテッド

ギフテッド

 

 

山田宗樹 『ギフテッド』

『百年法』を超えるスリルと興奮! ! 未知との出会いが読む者の本性を炙り出す、胸打つ大巨編ミステリー
25年前、アメリカ合衆国ミネアポリスに住む13歳の少年の体内に〈未知の臓器〉が見つかった。以後、同様の臓器をもつ子供たちの存在が、世界各地で確認される。
いつしか彼らは、羨望と畏れを込めて「ギフテッド」と呼ばれるようになった。
それから時が経ち、ギフテッドは新たな局面を迎えることとなる。
ギフテットとは何なのか? そして、彼らを待ち受けていたのは……。
理解できないものに対峙する恐怖、信念が根底から揺らぐ恐怖
恐怖は伝染し、拡大し、やがて、暴走し始める――。
進化なのか、異物なのか?
全人類の存在意義を揺るがす、禁断と衝撃と感動のスペクタクル大長編


レビュー

幻冬舎plus×ブクログ共同キャンペーンによるバウンドプルーフプレゼントに当選して読み始めた今作。献本企画は前にも貫井徳郎の『北天の馬たち』が当たったことが会ったから二回目。
なかなか面白いSFだった。簡単に説明するとギフテッドと呼ばれる、通常の人体には存在しない未知の臓器を生まれながらにして保有している子どもたちの物語。
新人類とも呼べるギフテッドは年々増えていき、社会も段々とそれに対して変化していく。良い方にも悪い方にも世論は簡単に傾いていき、段々と未知の力を持つ者とそうでない者に軋轢が生じていく。
古いテーマだけれど、この作品は改めてそういう点をとらえた物語だ。当然未知の臓器が何をもたらすものなのかは誰もが想像する通り超常的なものだが、それに対する恐怖や理解は世界を巻き込み、ついにある日、引き返せない大事件を引き起こす。それがトリガーとなり、世界を揺るがす事件と謎がハイテンポに続く。
終わり方は非常に苦慮したところだろうと想像できる。少々無理があったと思わずにいられないが、ああするほかなかったろうと思う。少なくともシンプルな対立構造に頼らずにできるだけリアルに実際の社会問題を取り込み複雑な「もしも」の世界を作り上げたことは素晴らしいところだと思う。
一気読みをテーマにしたようで非常に読みやすい。面白いので最後まで減速せず読めるだろう。それだけにラストの難しさは急ブレーキの感があるが、ストンと落とされてもそれはそれで納得行かないだろうと思うのであれでいいのかもしれない。
強いて望むならば後日談をもう少し未来を匂わせる内容にしても良かったのではないだろうか。
感覚的には、貴志祐介の『新世界より』の1000年前を読んでいるようで面白かった。

 

この下からはネタバレ有りで。

 

ギフテッド

ギフテッド

 

 


ネタバレ

超能力者ものの典型的な形だったと思う。
SPECや、新世界より、今アニメをやってるハマトラなんかが同じテーマだね。要するに昔からある超能力者と非超能力者で人類が二分してしまった時、その進化に社会や世論、恐怖や羨望、色んなモノがどう動いてどう落ち着くのかを扱っている作品と言っていいと思う。

面白いけれど新鮮さはあまりない。作中の超能力は、テレポートや空間を捻じ曲げる能力。それらを覚醒させることができるのが、生まれ乍らにして未知の臓器を持つギフテッドだ。
これは個人差があって特別強いものとそうでないものがいて。予想通り、何人かの傑出した能力者がトリガーとなり物語は事件と謎とともに動いていく。

主人公達川颯斗は同級生だった村山直美のテロによる強行的な差別世論の修正を止めようとする。坂井タケルやアレックス、佐藤あずさ、といったギフテッドや非ギフテッド、様々なキーパーソンの視点で物事を考えられるのは面白かった。

最後はテロリストになりかけていた村山と共に颯斗は、火星にテレポートするわけだが、これはちょっとやりすぎだったかもと思う。
それに根本的に解決はしない。利権を恣にしようと目論んでいたアレックスは今回は失敗したが同じことをするだろうし、あずさは最後までわだかまりを解消できない、他のメンバーも少々難しい立場であるし社会も決定的に変わりはしないだろう。
これはある意味ではリアルかもしれない。そううまくはいかないっていうリアルを描いたものならまさに成功だが、物語である以上もう少しうまく着地させても良かった気もする。「読後感を良くしようとするとこうなるんだろう」と、読者は思ってしまう。
ただ終盤までのスピード感と面白さは良かった。

 

 

百年法 上

百年法 上

 
百年法 下
 
嫌われ松子の一生

嫌われ松子の一生

 

 

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