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哲学のプロムナード(ΦωΦ)黒猫堂

推理小説やSFのレビュー・書評・ネタバレ解説・考察などをやっています。時々創作小説の広報や近況報告もします。

【夏の怪談企画】 第弐夜 時間をお返しします

 第夜 時間をお返しします

 作者 raki(らきむぼん)

 

雰囲気を楽しみたい方はこちらへ(背景を暗くしてあります)

→ 時間をお返しします

 

 

 

 ある骨董屋で、俺は古いテレビゲームのソフトを購入した。聞いたことのない会社の聞いたことのないゲームだった。しかし、なんとなく心惹かれ、六千円と古い割には高いソフトだったのだが、そのソフトに対応したハードを偶然持っていたこともあり、つい衝動買いしてしまったのだ。
 明日は休日だった。いつもはバイトが入っているのだが、明日はたまたま店が休みだった。しかしながら日本列島には今台風が接近していた。今も自宅アパートの窓が強風でカタカタと音を立てている。とてもどこかに出掛けられる天気ではなさそうだ。そこで、俺は購入したゲームをプレイすることにした。
 そのゲームは普通のRPGだった。タイトルは「DRAGON FIGHTERS」。有りがちな名前である。何故こんなゲームに心惹かれたのか、未だよく分からない。ソフトの箱の裏面を見ても、陳腐なストーリーが書かれているだけだった。
 しかし、奇妙な表記が目に入った。箱の裏面の下部に小さな文字でこう書かれている。

「このゲームがつまらなかった時は、時間をお返しします」

 意味がわからなかった。料金の返却ですらゲームソフトにはあり得ないだろう。ましてや、時間を返すなど、全く意図が不明である。
 ともかく、俺はハードに「DRAGON FIGHTERS」を差し込んで電源ボタンに指を置いた。
 その時、疲れているのか一瞬めまいがしたような気がしたが、特に気にせず俺は電源を入れた。
 軽快な音楽と共に、タイトル画面が表示される。中央には「はじめから」と「つづきから」の表示がある。
「ホント、普通のゲームだな……」
 早くも買ったことを後悔しながら、俺は「はじめから」にカーソルを合わせ、決定ボタンを押した。すると、名前の入力画面が現れた。どうやら主人公の名前を決めることが出来るらしい。俺は、そのシステムに僅かに懐かしみを覚えながら、自分の名前を入力した。
 ゲームが始まった。ストーリーは実にシンプルだった。暗黒の国に住んでいたドラゴンがとある国の王女を自分のものにするためにさらうのだ。王女を救うために立ち上がった勇者が、主人公である。
 一時間ほどゲームを進めると、およそどんなゲームであるのか解ってきた。基本的に現れるモンスターを倒しながらダンジョンを進み、仲間を増やしながら暗黒の国に向かう旅をするのだ。
「……どこまでいってもありきたりかよ」
 俺は独りでボヤきながらゲームを進めた。幼い頃から、時間があるとゲームばかりやっていた俺は、一度始めたゲームはクリアしなければ気が済まなくなっていた。今回もひどくありふれた普通のゲームであるが、一応クリアをするつもりだった。なにせ、六千円は相当の痛手である。最後にドンデン返しがあることを祈るばかりである。
 どれくらいの時間が経っただろうか。俺は数時間かけて、ようやく最後のダンジョンである暗黒の国に辿り着き、ラスボスであるドラゴンの前にいた。吐き気がするほどつまらないゲームだった。途中で何回もやめようとしたが、妙なプライドもあり、とにかく早く終わらせて眠りたいという気持ちしかなかった。俺は十分すぎるほどにレベルアップした勇者たちを操り、暗黒の国のドラゴンに挑んだ。
 本当につまらないありふれた最後であった。いとも簡単にドラゴンは倒れ、第二形態や黒幕も登場せず、女王を救い、ゲームは幕を閉じた。エンドロールがただ虚しく流れる。
「……嘘だろ。なんだこのゲーム、作ったやつ馬鹿だろ……」
 俺は、エンドロールが流れる間、冷蔵庫の中のビールを取りに行った。これは飲むしかない。非常に不愉快だった。ここまでふざけたゲームは始めてだ。なんで買ってしまったのか後悔しかない。
 テレビの前に座りなおし、ビールを片手に画面を見ると、エンドロールは終わっていた。そして意味のわからない言葉が画面上に表示してある。

「このゲームがつまらなかった時は、時間をお返しします」

 箱の裏面に書かれていたものと同じだった。そしてその下に更に表示されている文字がある。

「時間を受け取りますか はい いいえ」

 時間を受け取るとはなんだろう。俺は無性に腹が立ってきた。取り返せるものなら時間を返してもらいたいところだ。久しい休日を無駄にしたのだから。
 俺は迷わず「はい」を選択した。ボタンを押すと、画面はブラックアウトし、次にこう表示された。

「時間を返却します」

 次の瞬間、俺は酷い頭痛を感じた。頭が割れるように痛む。まるで頭蓋に釘を打ち込まれているようだ。俺はあまりの痛みに固く目を閉じた。
 軽快な音楽と共に、タイトル画面が表示される。中央には「はじめから」と「つづきから」の表示がある。
「ホント、普通のゲームだな……」
 早くも買ったことを後悔しながら、俺は「はじめから」にカーソルを合わせ、決定ボタンを押した。すると、名前の入力画面が現れた。どうやら主人公の名前を決めることが出来るらしい。俺は、そのシステムに僅かに懐かしみを覚えながら、自分の名前を入力した。
 ゲームが始まった。

 

 

 

(了)

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